【平成14年8月15日】

    「医療特区」のことをいうと地方行政は目を剥いて反対する。そのわけは地方行政が地元医師に学校医や産業医を無理に依頼しているからである。厚生労働省や日本医師会も「医は非営利性」として一般企業の参入を拒否している。私も最近までは同じ意見であったが、最近の企業の様子をみると必ずしも否定出来ない状態だと思い始めている。雪印乳業や日本ハムの状態を見ると企業は生き残りに必死だとツクズク思われるからである。またダイレクトメール・通信販売等で何でも買える時代となり、ダイエット食品もフリーパスで国民の手に届いてしまう。この現象を医師は見逃してはならない。何故なら国民は不景気にも関わらず、ブランド志向と健康志向に走り、大卒未就職者が20%もいても、それなりに生活している。国民は豊かなのであるが、将来が見えない不安に怯えているのである。
    この不景気な世情で、30兆円の市場があり、その上IT戦略による18兆円市場が見込まれている医療業界に対し一般企業が指をくわえて見過ごすはずはないであろう。その上、介護に到るや衣食住産業(ベッド・家電機器・健康用品)までも加わってくる。しかもこの不況下であっても高齢社会のため、日本医師会は10年後の医療費は倍の60兆円になると試算している。
    この4年間の物価指数は連続して漸減し、2.3%のまで下落し、人事院は公務員給与を初めて3%のマイナス改定した(年間平均約15万円ダウン)。そこで医療機関を運営している理事長さん達に伺いたいが、医療費の患者負担増が益々増加している現状をどの様に分析しておられるか?また今後負担増加する可能性がある医療・介護市場をどの様に考えておられるか?営利企業が見逃すと思っておられるかということである。医者ばかりが損をしているのではない。
    小泉総理は「医療特区」と称して、一般企業の参入を許可した。総理は、現場を知らない経済財政諮問会議の委員さん達の意見を受け入れている傾向にある。前回の国会でも「医療構造改革」の具体策はなくして「健康保険法の一部改正案」を強引に通した。日医は4月の時点で中医協に賛成し診療報酬が改定されたが、国会中盤から終盤にかけては全く反対の態度をとった。
    では今回の「健保法改正」により医療制度改革はどの部分に来ているのかというと、国公立病院の独立法人化や社会保険病院の廃止などの内容であり、急性病院の約半数は生き残れない状況になっている。そうなるとこの破綻寸前の医療機関を購入して一般営利企業が参入してくる可能性は十分考えられる。今後、患者はそれ相応の負担金を払う事になるから、当然サービスの良いところに集中する。サービスの面においては、従来の医療・福祉提供者よりも一般企業の方が勝っている。だから生き残るにはそれ以上の付加価値をつけなければならない。即ち「診・診連携」や「病・診連携」と「病・病連携」やなどのネットワーク化を取り入れなければ企業には勝てない。企業には医療機関のネットワークを作ることは困難である。これが「医療特区」である。あくまでも医師がリーダーシップをとり、その上で企業を巻き込む事が大切であり、お互いの医療をネットワーク化し情報交換すれば、企業には負けない。医師側が何の対策もせずに、ただ患者さんを待つ従来の医師の感覚でいたのでは、単なるサービスの良い企業経営病院に吸収されてしまう。「医療特区」を排除するのでは無く、進んで「医療特区」を迎え受けてはどうだろうか?今、医療提供者は、時代のニーズに合った医療体制(情報提供の必要性等)について真剣に考える時であり生き残るための発想の転換も必要であると思う。

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