医療保険制度改革あれこれ
茨城県医療法人協会ニュース 2002年7月10日 発行

  第154回通常国会(150日間)は重要法案が山積しているのに、議員の秘書疑惑・違法行為や不適当発言などが取り沙汰され、殆ど国会は空転している。考えてみると、次から次へと良く事件が起きるものだとつくづく感心する。それだけ情報機器(IT化)が発達したこともあるが、つまらない事件も面白く書いて売らなければならない記者の立場も分かるような気もする。野党も新聞や雑誌報道の内容を取り上げ、政治の浄化を訴えているが、単なる国民不在の権力闘争に過ぎないような気がして、遣る瀬無い思いである。今の日本の状態を世界から見ると、かつての経済大国の日本国債は三流に評価されるようになった。これは、報道陣ばかりではなく、現在の政治・行政の責任も問われている。4月24・25日に「個人情報保護法案」と「人権擁護法案」が上程された。これに対し”発言の自由を奪う”としてマスコミや有識者が反発している。しかし、この問題は1993年の「パリ原則」を踏まえ、利用目的・適正取得・適正性・安全性・透明性などの確保が主たる内容であり、これからの日本のあり方(医療も含む)を考えなければならない時期がきている。
  私に与えられたテーマは医療問題なので、詳細は省略するが、今後、カルテの情報開示が義務付けられれば、当然、患者の秘密も漏洩されることもあり、医療提供者も医療禍誤事件を面白おかしく報道されたら、医療機関なんか一溜りも無く吹っ飛んでしまう。
  さて本題に入るが、小泉改革の最重要法案の1つである「国民健康保険法の一部改正案」は国会でまだ審議されていない。しかし、中医協の答申をうけて、旧厚生省の改正案は4月1日から見切り発車してしまった。国会議員は細かい点数などは分からないので、細目は中協医に委託している。請求側と支払い側の代表が入っているが、その人達が決めたことには文句も言えない(三師会や周辺の学識経験者・社保・国保代表等で構成)。だから、国会議員が知らない内に保険点数が決まってしまう。約1年前に今回の医療法改正の内容を、議員は反対したが(抵抗勢力)、小泉総理の気持ちで医療費は2.7%(医療1.3;薬剤1.4%)の削減となった。この部分は不景気な世の中なので、仕方が無いと思っているが、影響はそれ以上になる可能性がある。今のところ経過措置期間であり、現状の制度が残っているので、それ程影響はないが、半年後の10月から「1割負担の償還払い制」が実施されると国民はきっと驚くと思う。国民に幾ら説明しても分かって貰えない。なってみないと理解できないらしい。従って、10月以降の患者さんの受けとめ方で医療は全く変わってしまうかも知れない。その上「手術の施設基準」が設定された。大学病院や国立病院などは独立行政法人となり、国の補助金は出ないことになった。この「施設基準」とは、1万点を超えるかなり難しい手術は100%保険適応になるが、下記*1に示す如く年間の手術症例数をクリアされていないと、規定点数の70%に査定されてしまう。その理由は「手術をたくさんやっている所は成功率が高い」という発想で、施設につけられた点数なので、熟練教授が外部の病院で執刀しても点数評価は無くなる。確かに手術はチームプレーであり、看護婦も術後経過は良く把握し、細かな点も見逃さないから、患者にとっては有り難い事である。ある新聞が「施設基準は医療過疎化を進行する」と報道していたが、私はその影響はあまり無いと思う(下記*2)。その理由は、一般民間病院で「施設基準手術」(下記*1)をクリアしている施設は少ないからである。今まで通りやっていれば、それ程目減りはしない。しかし、高度医療機関で施設基準に達していないところは、苦労するが、保険外料金の徴収を認められたので、下記*2の紹介率で左右されるので、地元の医療機関の紹介がなければ存続は危ぶまれる。一方、地元の医療機関は、入院基本料はそのままで、手術点数も1万点以下では変わらないので、影響は思ったほど無いと思う。肝心なことは「病・診連携」「病・病連携」を積極的にやらないと、患者の1割負担のボディーブローがかなり利いてくる。うまく連携しあって、運用すれば患者は減少せず、反対に増加する可能性もある。
  話は変わるが、平成5年に第二次医療法の改正が行われた。この内容は教授が手術しても新人医局員がやっても点数が同じなのはおかしいというので、高度医療を受け持つ特定機能病院(82施設)と社会的入院を受け入れる医療型病床群に分けられた。特定機能病院は自己の裁量で自由診療を認めたのに、実際に自費扱いすると患者は減少するので、相変わらず保険診療を継続した。今回はそれを具体的に数値に出しただけの話である。平成10年に第三次医療法改正が行われた。介護保険の導入と共に、”かかりつけ医”制度を導入し、「病・診連携」を打ち出したが、各医療機関は相変わらず患者を抱えこみ、地域ケアのテーブルの上にはでてこない。しかし、このようなことをいつまでもしていると、患者は幾つかの医療機関を選んで渡り歩くので、1割負担の導入で医療機関が不当な料金を取っているのかどうかすぐ分かり患者は減少する。要は、各医療機関は「患者が何を望んでいるのか」を早く気付くことが肝心である。


 
(*1)手術の施設基準設定

1.現状、課題及び趣旨

現状では、診療報酬上施設基準が設定されている手術は埋込型除細動器移植術等の19項目にとどまっている。

医療の質の向上及び効率的な医療提供の観点から、一定の施設基準を設定する手術の対象範囲を拡大する。


2.具体的内容

一定以上の難易度及び点数単価の手術について、年間症例数等の一定の要件を満たす施設について、手術料を別に設定する。

  対象手術選定基準 施設基準
  難易度と点数 全国年間症例数 年間症例数 医師要件
区分1 長期間の臨床試験を要し、かつ12年度10,000点以上 5,000〜
 10,000例
50例以上 該当手術分野の臨床経験を10年以上有する医師
区分2 1,000〜
 5,000例
10例以上
区分3 1,000例未満 5例以上

上記基準を満たさない施設においては、手術料について既定点数の70%を算定する。

「経皮経管冠動脈形成術等」「ペースメーカー移植手術・交換術」「人工関節置換術」「体外循環を要する心臓血管外科手術等」「乳児の外科手術等」の5分野については別途基準を設定する。

新規開設等、過去実績のない施設については、当初に半年は既定点数の70%を算出し、半年間の実績が施設基準年間症例数の半数に達していれば、基準を満たした施設と認める。


3.施設基準が設定された手術
   平成12年度の診療報酬点数が10,000点以上のもののうち、以下のいずれかに該当するもの

特殊な技術を要するなど、技術的難易度の高いもの

胃ガン手術など一般的に行われる手術でないもの

高額な医療材料を用いるもの


 
(*2)紹介率を要件の一部としている診療報酬項目(参考)
   ○紹介患者加算1〜5
    ・紹介状を有する患者について、初診料に加算する。
    ・紹介率要件は以下の通り。
紹介率
紹介患者加算1 400点 80%以上 (地域医療支援病院、特定機能病院に限る)
紹介患者加算2 300点 60%以上 (地域医療支援病院、特定機能病院に限る)
紹介患者加算3 250点 50%以上  
紹介患者加算4 150点 30%以上  
紹介患者加算5  75点 20%以上  

   ○紹介外来加算等
    ・要件を満たす医療機関において、入院基本科に加算する。
    ・次に揚げる1〜4の加算について、いずれも紹介率30%以上を要件としている。
紹介外来加算
紹介外来特別加算
急性期入院加算
急性期特別入院加算



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